アルツハイマーとともに〜おママの貼り絵日記〜

アルツハイマーの母(おママ)が作った貼り絵と暮らしを紹介しております。

記憶についてNo.17 家族を忘れて⑩(2016年12月)

 

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            (2017年12月9日  診断から約9年10ヶ月)

 

   認知症の人は日々何を感じ、何を思って暮らしているのでしょうか?
頭の中から夫や子供の存在がぽっかりと消え失せた状態が、いまだに私には想像つきません。

2016年の12月に、こんな事がありました。
   昼下がり、ジジと私は1階で仕事をしていました。すると、おママが古いアルバムを抱いて2階から降りてきました。少し顔色が悪いのが気になりました。
おママは椅子に腰掛けるなり、アルバムを開いて私に言うのです。

「あなたは誰さんなの?」
「あなたの娘のチャーコですよ。」

するとおママはきゃはは〜と笑いました。笑って誤魔化す時のおママはいつもこんな感じです。

  笑いながらおママはアルバムから1枚の写真を私に差し出しました。糊が劣化したて剥がれ落ちたのでしょう。
「これは誰さんなの?」
それはオネコが3歳くらいだった時の写真でした。
「それはお姉ちゃんよ。」
「お姉ちゃん?誰なの?」
見かねてジジが口を挟みました。
「あなたの1人目の娘のオネコさんだよ。それでこっちが2人目のチャーコ。」
「えーっ、子供が2人いるの?なんだかよく分からないわ。」
なんということか。
ボケても昔の事は良く覚えているなんて事は、認知症には当てはまらないのだ。
おママはすべての記憶が消えかかっているようです。
「頭が痛いわ。ずしんと重苦しく痛い…。」

  子供を産み育てた記憶もなく、我が子の存在すら忘れた事にショックを受けたのでしょう。おママの顔は見る見るうちに強張り蒼白になりました。

   もう、笑って誤魔化す範囲を超えてしまったのね。
おママは起きている事も出来ず、布団でしばらく横になりました。
枕元で手を握っていたジジにも、
「あなたは誰なの?」と聞いたそうです。その手はとても冷たかった…。

 

   おママは誰とも分からない人と暮らし、日々を過ごしているのですね。

一緒に居るから、家族かもしれない。
何となく安心できる人達…。
ここは自分の家なのかも知れない。

 

   全てが記憶に裏付けされていないとしたら、何と不安で恐ろしい事だろう。
私たちはこれを完全には理解できないと思います。

そして、私は忘れられた事ばかり気にして、忘れたおママを思い遣っていなかったのだ…。
でも、せめて想像力を働かせ、寄り添うしかない…。

 

   ま、それから1時間ほど経ったら、目覚めたおママは寝巻きのまま、パソコン部屋に現われました。
「お父さん、ご飯どうする?」
「………。」
私は涙ぐんで反省していたのですが…。
忘れた事を忘れたのね…。(笑)

 

後日、オネコと私はいかにすべきか話し合いました。
  こんな対策を考えました。


★「誰なの?」と聞かれても「娘です」と言って忘れた事ををことさら自覚させるのはやめよう。おママがショックを受けて体調を崩すといけないから。
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★そのために「誰なの?」と聞くシチュエーションをなるべくつくらないようにするにはどうしたもんか?
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★話かける時も、「お母さん、お母さん」と私達から積極的に声掛けして、自発的に「娘かな?」と思ってもらえるようにする。

 

  読んで下さり有難うございます。