アルツハイマー型認知症と診断されて10年になるおママ。
ほぼ毎日、こうして貼り絵をご紹介しておりますが…。
本人は、貼り絵の現物を目の前にしないと、自分が貼り絵をやっている事すら忘れております。時折、何日か休む事もあるのですが、本能的に作業机に座り1日1〜2枚仕上げているのにですよ。その活動自体を忘れるのです。
(2016年9月17日 診断から約9年8ヶ月 この時期はたいへん多作でした。)
昨年の10月にこんな事がありました。
午後3時、ジジと私がパソコン部屋で仕事をしていると、階段を降りてくる気配がしました。おママです。
大抵この時間帯は鬼門。大概、おつかいに行きたいと迫るか、頭が痛いと愁訴するかです。
ところが、この日は違いました。
「あら、大変ね。何か手伝える事があれば、お手伝いするわよー。」
ご機嫌です!おママに出来そうな事はないけど、1人で2階にいたら寂しいでしょう。
「大丈夫よ。でも、せっかく下りてきたんだし、そこの椅子にでもお座りくださいな。」
私がそう言えば遠慮深く、いいのいいのと首を振る。
するとジジが一言。
「2階でいつもやってる貼り絵をしたらどうですか?」
この発言、私は直感的にまずいと思いました。虎の尾を踏む事になりかねません。
案の定、おママは懐疑的に言いました。
「いつもの貼り絵ってなに?」
「ほら、いつも2階の机でやっているじゃない。」
「そんなの、やってないわよ。貼り絵って何のこと?」
「えっ、だって、ほら、雑誌の写真や包装紙で貼り絵を毎日してるでしょう。」
「やってないわよ。どうしてそういう事いうの?」
明らかにおママは不機嫌になりました。しかし、ジジもこうなると必死になってしまうのです。
「毎日やっている、あれだよ…。小津和紙から取り寄せた葉書に切り貼りしてるのに、なに言っているの!」
「お父さんこそ、なんなのよ。勝手なことばかり言って!」
ヒステリックなおママの声が響きました。
機嫌の良かったおママは、もうそこには居ません。目を三角にして仁王立ちになっていました。私がもっと早く話を切るべきでしたね。
「まぁ、お父さんもおよしなさい。もう、いいじゃない。
ねぇ、お母さん、お2階でおやつでも食べましょうか?」
私が取り成してみたものの、些か手遅れでした。
「そうよ、変な事言わないでよ!」
「おやつ食べる?」
「いらないわよ!!」
おママは怒りにまかせ、ドスドス階段を上って行きました。
ジジよ…。気持ちは分かる。毎日やっている好きな事すら覚えていない。
そんな妻の現状を受け入れ難いのも分かる。
でもさ、身に覚えがない事を
「毎日やっているでしょう」
と言われたら、誰でも困惑するよね。
私はジジに優しく意見しましたが、これは自分に言い聞かせた事でもあります。
忘れた事は追求せずに受け入れる。
頭では分かっていても、9年以上経っていても、
家族には難しい時もあります。
この15分後、私が様子を見に2階に上がると、静かに貼り絵をしているおママの背中が見えました。
「御精が出ますね。そろそろ、お父さんは一緒にお遣いに行くそうよ。」
声を掛けたら、おママは笑顔で振り向きました。
記憶って…。
ポンと引出しが開くように出てきたりするのに、
毎日の活動が出てこなかったり、
不思議です。