アルツハイマーとともに〜おママの貼り絵日記〜

アルツハイマーの母(おママ)が作った貼り絵と暮らしを紹介しております。

番外編 「『用の美』に魅せられて」2017年9月九州旅行

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(堆漆塗  矢羽文大鉢)

ちょっと、いつもと違う記事ですが、これは番外編です。
写真は私の友人で漆芸作家 廣田洋子さんの作品。

堆漆塗漆器(ついしつぬりしっき)です。

あまりに素敵なので、番外編として紹介させてくださいませ~。

 

  学生時代に廣田さんは何度も私の実家を訪ねてくれました。そして、おママも彼女の来訪を楽しみにしていました。

今のおママは覚えていないと思います。でも、私には懐かしい思い出です。

もし、おママが認知症になっていなければ、これらの写真を見て、とても喜んだでしょう。

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(堆漆塗   石楠花柄カップ    菊文盛皿    石目文スプーン   渦文小皿)

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(堆漆塗   菊文茶箱)

友人との再会の旅。
   実は先週、私は福岡県に行って参りました。
道連れは学生時代の友人です。彼女も昔、おママと仲良しでした。

 

2人とも急に都合がついたので、思い切って飛行機でひとっ飛び❗️

そう言いたいところですが、お互い何とか親や家族と折り合いをつけ、

バッタバタの出発でした。(笑)

 

  そして、向かった先は、豊前市の廣田さんのお宅です。
私達は大学で同じ専攻の同級生でした。
お宅に伺うのは実に30年振り。前回は私達がまだ20歳くらいの時の事です。

  かつて、お目にかかったお母様は、今や御歳91歳。

以前、転倒なさってお怪我をされたそうですが、リハビリの甲斐もあり、だいぶ歩行がスムーズに出来るようになりました。

認知症もあるのですが、廣田さんの事を「洋子ちゃん」と呼んでいらっしゃるし、おママよりは軽いようにお見受けしました。現在は近所のデイサービスに通っていらっしゃいます。


つまり、廣田さんは御高齢のお母様の介護をしながら制作を続けているのです。

なんと、その制作と介護をされているお宅へ泊めていただいたのでした~。m(__)m (私って、ひど~い)
しかし、おかげでゆっくりとお話しする事もでき、作品もたくさん見せていただきました。おまけに沈金技法の体験までしてきましたよ〜。

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(堆漆塗     直弧文半月盆   格子柄椀    縞文角皿   縞文箸)


漆の道
   廣田さんは大学を卒業後、香川県漆芸研究所に進み、彫漆(注)の技法を学びました。漆芸研究所卒業後は故郷の豊前市で作家活動を続け、その活躍は日本伝統工芸展入選、西部工芸展受賞など多数にのぼります。


   漆芸の道をひたすら歩んできた廣田さんですが、悩む事も多かったそうです。

彫漆による伝統工芸の作品を制作する傍ら、もっと手軽で日常的に使える漆器の制作を模索していました。
   その思いを胸に、平成20年から実用的で美しい技法を追求し、同じ香川県漆芸研究所の後輩である森田徹さんと「堆漆塗」の研究を始めました。

  そして、技法を確立した現在は、森田さん(福岡県大川市)と共に「堆漆塗漆器」の制作をしています。

(注)彫漆    乾漆等の素地に色漆を何十回何百回と塗り重ね彫刻したもの。

 


堆漆塗漆器のステキさは…。

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(堆漆塗   朝顔型矢羽文盛鉢)


『「堆漆塗漆器」は木製の素地にたっぷりの天然漆で文様を施した用と美を兼ね備えたオリジナル食器です。一般的な漆器と違い表面の凹凸模様が特徴(魅力)で、その塗膜は剥離しにくく堅牢。忙しい日常でも気軽にご使用でき、お手入れしやすい漆器です。木製なので重量も軽く、破損の危険性も少ないため、ご年配の方やお子様。お体の不自由な方など幅広く愛用されています。』(堆漆塗漆器の説明書きより)


  私は4~5年前から「堆漆塗漆器」のお椀を使っています。その文様の美しさとモダンさは、いわゆる漆器のイメージを超えた魅力があります。漆器といえば和風。日本食と思いがちですが、「堆漆塗漆器」はお料理を選ばない多様性を秘めています。

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(⬆️何気ない夜の食卓やおつまみにも。矢羽文のお皿です。)

 

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(⬆️手作りの温かいお惣菜にも。 渦巻文盛鉢です。)


  見た感じの良さだけでなく、その手触りには温もりがあり、例えば熱い飲み物を入れても外側は熱くなりにくく、内側は保温性に優れています。
漆器本来の良さに加えて、実に使い易く堅牢です。普通の台所用洗剤とスポンジで(金属タワシはNG)他の食器と一緒にゴシゴシ洗い、すぐに拭かなくても表面の艶やかさは損なわれません。

  娘のアズキはよくこのお椀で某メーカーのカップスープを飲みます。しかし、罰当たりなことに、飲んだまま台所の流しに放置して出掛けるのですよ❗️(怒)

何時間もお椀の表面にコーンスープが乾いて付着するのですが、洗剤とスポンジで洗えば何の問題もありません。

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(堆漆塗   菊文皿   黒線文小鉢)

 

  私は廣田さんと森田さんが作り上げた「堆漆塗漆器」を見ると、『用の美』という言葉を強く思います。

この言葉は大正時代の「民藝運動」を提唱した柳宗悦によって生み出された概念です。
西洋の芸術でもなく、高価な古美術でもなく、作り手である職人達が本当に使い易い物を追求して無心に努力を重ねて生み出された形に美が宿る…。柳宗悦が『用の美』という言葉に込めたものは、そんな感じでしょうか。

より美しく、より使い易く…。

「堆漆塗漆器」の進化と発展を願い、

敢えて、このブログで紹介をさせていただきました。

 


小学生にも好評の漆体験を私もやってみました。
沈金という技法です。
⑴お椀の表面に好みの図柄を特殊な刀で彫ります。彫るというよりキズをつける感じ。それが難しいのです。

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(⬆️彫っております。)


⑵彫り終わったら、お椀の表面に生漆を刷り込み、綺麗に拭き取ります。彫った図案部分は凹んでいるので、生漆が残ります。ここからは生の漆を使うので、素人の私達は被れるから触れません。


⑶金粉を彫った図案に刷り込み、全体をきれいに拭きます。

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(⬆️金箔を真綿で拭き取っています。)


⑷乾いたら出来上がり。乾燥には約1週間かかるそうです。


旅の思い出
  廣田さんと森田さんには国東の宇佐神宮と富貴寺に連れて行って頂いたり、お宅でご馳走になったり、最寄駅に送迎してくださったりと、大変お世話になりました。

そして、一緒に行った友人がケーキを焼いて皆んなでお茶をしたり…。すべての時間がとても良い思い出になりました。
それも廣田さんのお母様の状態が安定しているおかげとも言えます。

 

最終日に友人と私は、博多でもう1人の懐かしい友に再会し、一緒に唐津市の虹の松原と鏡山に行きました。これも忘れられない思い出です。

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(博多在住の友人と3人で眺めました。鏡山から臨む思い出の唐津湾。)

友人達に感謝の気持ちでいっぱいです。有難うございました。

 

そして、今回、私が旅行に出られたのもジジとおママが元気でいたからです。

家族にも感謝しております。