(2019年10月13日 アルツハイマー型認知症の診断から約12年7ヶ月)
*おママは上機嫌
歩いて駅周辺まで行くのは大変だったけど、クリニックの中で、おママは大変上機嫌でした。
待合室では鼻歌を歌い、見ず知らずの小学生男児に声をかけていました。そして、隣に座った中学生くらいのお嬢さんには、彼女の髪の毛を止めているシュシュを褒め、どれだけそれがよく似合って可愛いかを少ない語彙で表現しようとしていました。
「あなた、いいわね、ほんとうにこれが(お嬢さんの髪の毛の色が)きれいで、いいわね。」
おママさん。思ったことはすぐに口にしてしまうのね。
フレンドリーなのはいいけれど、お嬢さんは戸惑っていますよ。
私は男の子のお母さんと、お嬢さんに一言謝っておきました。
「すみません。認知症なのです。気を悪くされていたら申し訳ありません。」
でも、待合室の方々は優しかったです。
「全然、気にしないでください。大丈夫ですから。」
そう言って頂くと心が軽くなります。おママは怒鳴ったり怒ったりするタイプではないので、その点は助かるのですが、認知症の人が出掛けるのって大変です。他の方の理解と寛容さに感謝でいっぱいでした。
その上機嫌のおママの横で、クリニックの看護師さんと私は診察の内容について話していました。
「今の母の目の状態がなんとなく分かればいいかなと思っています。白内障も年相応にはあると思いますから。それと認知症が重いので視野検査は無理だと思いますが、欠損の可能性があるのか知りたいです。今後の参考になりますので。」
「そうですね、一応初診なので、視力検査もしますが…、平仮名とランドルト環とどちらが理解しやすいでしょうか?」
はて、平仮名は読める字は読めたり読めなかったりします。ランドルト環に感しては「どっちが空いていますか?』の質問を理解するのがまず難しいでしょう。
「どちらかと言えば、ひらがなかしら…。」
「はい。それと眼球の中をしっかり見るために瞳孔を開くための目薬を入れてもいいでしょうか。しばらく明るいところや陽に当たるとチカチカ眩しいので歩くのが危なかったりします。」
「おそらく帰る頃には日も暮れると思いますので、構いません。」
やはり、おママは初診ですから、ジジより待ち時間が長かったです。ジジはさっさと視力検査を済ませ、診察が終わりました。
「全部終わったら、先にジジを連れて帰ってね。」
私がオネコに言った丁度その頃、おママはようやく視力検査が始まったのです。
*まさかのランドルト環
視力検査をしようと片目を塞いだ眼鏡をかけた途端におママは「なにこれ?」と外してしまいました。看護師さんと私で
「芙貴子さん❗️外さないで❗️」と必死に何度も掛けさせて、ようやく落ち着いたのですが、今度は
「こちらを見てください。」
と言う指示が理解できません。看護師さんは平仮名の検査板を指し示しながら言いました。
「この字は読めますか?」
「え?何のこと?知りません❗️」
あまり埒が開かないので、看護師さんはランドルト環の方に切り替えてみました。
そして、1番大きな輪っかを指し示していいました。」
「この丸、どっちが空いていますか?」
「え、え、なんだか、わかんないんだけど…。」
おママは少々混乱をきたしているようでしたが、不意に左手を上に挙げました。
そして、親指と他4本の指で丸く「C」の字を作って嬉しそうに笑うではありませんか。
「はい❗️これ。」
お,おおっ、おママ正解ですよ。
「あら、出来ますね。じゃぁ、これは?」
今度は、おママは指で作った「C」を下に向けました。
「これも正解❗️素晴らしいですね。」
おママは立て続けに4回正解して、後は疲れたのか、小さ過ぎて見えなかったのか。
正解には至りませんでした。
右目0.1、左目0.08
普段のおママの様子から考えると、実際はもう少し見えていると思います。
そして、おママは瞳孔を開く目薬をさされていました。
*やはり…
しっかりおママの瞳孔が開いてから、先生の診察が始まりました。診察機械の前に座っても、おママは落ち着きがありません。不安なのでしょう。
「ここに顎を載せて下さい。」
おママは首を傾げて右手を載せました。
「載せるのは手じゃないってば❗️」
埒が開かないので、私はいささか強引におママの顎を所定の位置に載せてあげました。
先生は両目をレンズを使って診てから眼圧を測りました。
右目23、左目19。
眼圧、高めですね。
緑内障の私は毎日眼圧を下げる点眼薬を使って両目14くらいに抑えています。
「年齢相応に白内障はありますが、思いのほか白濁はありません。」
「そうですか。」
私は心の中でガッツポーズをしました。
「ただ、緑内障ですね。視野検査ができないとなると、本当にご本人がどう見えているのか判らないのですが、下半分は見えていない可能性があります。」
「手元のあたりでしょうか。」
それは、私のイメージ的にも想定内でした。手元が見えにくい、当然歩いていても足元が見えないでしょう。
「おそらく…。うーん。どうなのだろう。」
先生は少々懐疑的でした。何か気になるようです。
それで、おママの眼球の写真を撮り、画像検査を試みました。
(またもや、続く。次回が最終回です。)
*本日アップの貼り絵
ランドルト環が話に出てきたので、この貼り絵を選んでみました。
2019年の秋におママは同じ雑誌の広告から3枚の貼り絵を制作しました。
1枚だけ、ご紹介していなかったようです。(↓)
元はこちらでした。(2019年10月撮影)
コム・デ・ギャルソンの広告だったと思います。
他に使われたのは(↓)歌舞伎座の袋。劇場内でお土産を買うとこんな袋に入れてくれます。
(↓)そしておママが認知症になる前に大判で購入した友禅紙です。現在もよく使っています。
おママの貼り絵を見て下さり,ありがとうございます。