(2022年10月10日 アルツハイマー型認知症の診断から約15年8ヶ月)
*観て良かった
2023年1月7日の夜、NHKスペシャル「認知症の母と脳科学者の私」を見ました。
題名からして、私はてっきり脳科学者の娘が認知症の母親の症状や進行などを科学的な検知から解明していくドキュメンタリーなのかしらと思っていました。
でも、画面に映し出されたのは脳科学者というより、認知機能が衰えていく母に寄り添う娘の姿で、とても共感しました。
脳科学者の恩蔵絢子さんは長年「人の感情と脳の働きの関係」を研究してきたそうです。
お母様が7年前に65歳で認知症と診断されてから、定期的にMRIなどの画像検査を受けつつ、ずっとその様子や症状、暮らしを記録し、分析をしてきました。
認知機能が失われ、一部「母らしさ」が失われるのは疑いようもない事実である。
しかし、認知機能が衰えても残っている「母らしさ」があるのなら、それは一体何なのか?母の感情を拾って、母をもっと深く理解することができたらよい…。
番組内で恩蔵さんが認知症のお母様について、ご自分の思いをたくさん語っていらっしゃいます。それは認知症の母を見守ってきた私にも頷ける言葉ばかりでした。
私の母、おママは72歳でアルツハイマー型認知症と診断されました。そして89歳になるまで「おママの貼り絵」を続けてきました。その中で私自身では上手く咀嚼できなかった思いが恩蔵さんの言葉と重なって少し腑に落ちました。
それを整理しながら書き出してみようかなと思います。
*その人らしさ
認知機能が衰えて記憶もなくなり、家族が分からなくなっても、「その人らしさ」は残るのでしょうか?
そもそも、「その人らしい」と感じるのは「その人」以外の人間の検知に過ぎないのかもしれません。
本当の「その人らしさ」って何なのでしょう。
私も全く同じでした。知っているようで、私はおママの事を理解していたのでしょうか。私もおママの認知症に向き合いながら、おママという人、おママの歩んだ人生に思いを巡らすようになりました。
*ネガティブ発言
症状が進むにつれ、恩蔵さんのお母様は「できません」「もうだめだ」「わからない、バカだから」などのネガティブな言葉を言うようになったそうです。
これは特に求められていることが「出来ない」時に出る言葉。
「音楽療法」でお母様の大好きな歌を勧めても「もうだめ」と言う。
でも、音楽が流れれば自然と歌えるのに…。
お誕生日に花束を渡されても「できません」「もうだめだ」と言う。
恩蔵さんにお母様は花瓶に生けるのが難しいと感じたからでしょうけど、恩蔵さんが一緒にやればできるのに…。
おママもそうです。貼り絵を勧めても「できません」と言いました。
でも、綺麗な紙を見せると喜び,ハサミや糊を持たせれば出来るのに…。
このネガティブな発言はどうして生まれるのでしょう。
2021年7月、恩蔵さんのお母様の脳をMRI検査すると、前頭葉の密度がかなり低くなっていました。これではお母様の「その人らしさ」が証明できません。
その萎縮した画像を、恩蔵さんは東北大学の研究室へ持参しました。そこで脳の表面にある「灰白質(かいはくしつ)」の量を正常な人の脳と比べて解析してもらいました。
萎縮していても、恩蔵さんのお母様の「灰白質」は場所によっては想像以上に残っているとのこと。これは感情などの高次認知機能が場所によっては保たれている可能性を示しているそうです。
恩蔵さんは考えました。
ネガティブな発言は母の母自身に対する思い。分からない自分を恥ずかしいと思っている。でもそれは一生懸命に生きたいという思いの裏返し。
なるほどと思いました。
かつて出来たであろうイメージと、今のできないと感じる自分を比べている。
本当は出来たらいいなと思う。そして、無理だなと感じる。
私もおママのネガティブな発言を「一生懸命生きたいと思う裏返し」と思って聞いてあげれば良かったな…。ちょっと後悔。
*娘の思い
2022年8月に恩蔵さんはご両親と3人で旅行に行きました。それは,症状が進行するににつれて、お母様があまり感情を見せなくなってきたから。
目新しい環境を用意すればお母様の感情が動くのではないかという期待がありました。でも、お母様の反応は今ひとつ。
一生懸命,客観性を保とうとしても、どうしても無理で、ぼーっとしているような姿を見ていたくないと言う気持ちで、はっきりいろいろ見えた世界に引っ張ってこようとする振る舞いを、やはりたくさんしていると思います。
これは話し言葉なので分かりにくいかもしれません。主語を置いてみます。
「一生懸命,(恩蔵さんが)客観性を保とうとしてもどうしても無理で、(お母様が)ぼーっとしているような姿を(恩蔵さんは)見ていたくないと言う気持ちで、はっきりいろいろ見えた世界に(恩蔵さんがお母様を)引っ張ってこようとする振る舞いを、やはりたくさんしていると思います。」
私はこの言葉を聞いて涙が出ました。
おママの出来ること,出来る能力を少しでも保っていて欲しいから、私は一生懸命におママに働きかけて貼り絵を続けてもらいました。
でも、それは、おママが自ら貼り絵に取り組んでいた頃の「はっきりといろいろ見えた世界に」必死に「引っ張ってこようと」した振る舞いではなかったか…。
今、自問自答をすればまさにそれでした。
でも、これは子の側の止むに止まれぬ思いです。親の「その人らしさ」を保ちたいという祈りのような気持ちなのでしょう。(T_T)
今は一人で食事をする事ができず、生活全般に介助が必要になった恩蔵さんのお母様。
娘が茶碗蒸しを作っている姿を見て、心配そうに台所に足を踏み入れます。そして,出来上がった茶碗蒸しを食べさせる娘。それは母の残したレシピの母の味。
完璧だった母から、認知症になった母まで、全て見届けて、「母らしさ」と呼びたい。
同感です。
その人らしさは能力ではなく感情にある。
私もそう思いました。人間の脳は複雑です。
MRIの画像で目も当てられないほど脳が萎縮をしていたおママも、大好きなきれいな紙を喜び愛でる感情がしっかり残っていました。
「灰白質」の検査など、多方面から認知症に罹った脳へのアプローチが増えてくれば、
もっと認知症と「その人らしさ」の保たれていることが、しっかり解明できるのかもしれません。
(2023年1月14日土曜日午後10時までNHK➕で見逃し配信中です。)
*本日アップの貼り絵
2022年10月10日の作品です。
おママはこちらの作品の直後に取り掛かりました。(↓)
(↓)まずは「お題」を切ってみる。
<おママの貼り絵制作動画①>
2022年10月10日 11:31〜(1分48秒)
予めチャーコが箱から使えそうな小さな切れ端を幾つか出しておきました。おママは緑と黒の市松模様を手にして直ぐに配置しました。他のはどうしましょう。
チ「ちょっと大きいね。半分に切らないとね。」
マ「とんとんとね。」
おママは人差し指でピースを分割する仕草をしました。2案のうちどちらにするのでしょう。
(↓)糊付け中。
<おママの貼り絵制作動画②>
2022年10月10日11:40〜(46秒)
最後の追加する三角形を切り,おママは考えながら配置しています。
(↓)出来上がったら日付を書きましょう。段々難しくなってきました。
名前はもう、おママはチャーコにこれだけは書かされています。(^◇^;)
(↓)小津和紙で購入しました。
おママの貼り絵を見て下さり、ありがとうございます。