アルツハイマーとともに〜おママの貼り絵日記〜

アルツハイマーの母(おママ)が作った貼り絵と暮らしを紹介しております。

記憶について No.60 麻袋の話

(2021年1月11日アルツハイマー認知症の診断から約13年11ヶ月)

急にこだわる

ジジは97歳、それなりにボケてます。

最近は学生時代からつい昨日までの記憶が定かではないようです。

でも、時々、何かのスイッチが入ると、自分が若かった頃に起因する話題に固執することがあります。

これは9月末から10月の初めにかけてジジが拘っていたお話です。

 

ジジは気になることや不安なことがあると、オネコさんや私のスマホに繰り返し電話を掛けてきがちです。

こちらが出られなければ、数分おきに着信があるという、まぁ娘の立場からしたらかなり迷惑な事ですわ。

ただ、緊急事態かもしれないから、一応出られる時は出るようにしています。

オネコさんによると、ジジはデイサービスから戻って、1人で家にいる時に

「間違って会社に連れてこられちゃって、どうしようか?」

などと電話してくることが多いらしい。会社ってなによ。(^◇^;)

 

でも9月30日はちょっと様子が違っていたそうな。

夕方オネコさんから私にLINEが来ました。

「なんか麻袋の検査に不合格になり、私もチャーコさんも大変な事になっているという妄想に駆られていたようで、何度も電話してたのよー。『繋がらない繋がらない』って言ってるから、もう(デイサービスからジジの)家に帰ってるから、大丈夫と言ってるのだけど」

「『私もチャーコさんも麻袋の仕事とは何の関係もないよ、うつらうつらして夢を見たのでしょう』と何度も言ってもその妄想が消えないのだわ〜。

『麻袋は怖いから』だって❗️」

そのLINEの直後に私のスマホにもジジの着信がありました。通話してみると、やはり麻袋の事でした。ジジはかなり焦った状態で、切羽詰まった声を出しているではありませんか。

「麻袋が検査で不合格になってしまって、チャーコさんのところにも連絡があったでしょう。今どんな状況なの?」

「大丈夫よ。私は麻袋には一切関係ないし、麻袋で商売をしていないから。」

私が何度も説明しても、ジジは全く理解しようとしませんでした。

「なんだか、とんでもないことになって、どうなっちゃってるのか分からない」

と混乱気味でしたが、薄情な私は通話をいったん切りました。

ただ,ちょっと不思議な気がしました。

もしかしたら、若い頃の記憶が妄想として蘇ったのかしら?

「あさぶくろ…?」

ジジは10年ほど前まで、麻袋の事を「あさぶくろ」ではなくて「またい」と言っていたからです。

「それで『検査で不合格』か…。」

私は思わずふふふと笑ってしまいました。

若い頃の武勇伝

ジジは大学を卒業し新卒で農林省に入省しました。そこで仕事上繋がりのあった関西系の中規模商社にスカウトされて、30代の初め頃に転職しました。

以前ジジから聞いた話では、農林省時代から商社でも穀物や種苗を海外から買い付け、国内で販売する仕事もしたようです。

それで、当時のジジにとって麻袋はお馴染みの商材でした。なるべく低コストで品質の良い麻袋を大量に抑えておく必要があったらしい。

昭和20年代末期から30年代の初頭の、まだジジが若かりし頃、その「またい」について問題が発生しました。ある時、大量の「またい」が検査で不合格となり、多くの不良品が出てしまったそうです。

それは、私の記憶では、縫目にほんの小さなミスがあって、極々小さな穴が見つかったという話だったと思います。該当「またい」の製造業者は「返品されて返金したら(会社が)潰れてしまう、一家で首を括らなけりゃならない」と泣きついてくるし、ジジだって立場上、自分の勤め先が損害を被るような事態は避けたい。しかも、港に着いた大量のマッペ(もやしの種)を大急ぎで麻袋に詰めさせて出荷しなければならないし…。

一刻の猶予もない。さぁ、どうするか?

 

えええーっと、若かりし頃のジジがどうやってこの窮地を乗り越えたかですか…?

(^◇^;)

ジジは商社を60代で退職して、そこから89歳まで損害保険の仕事をしました。

80代前半だった頃、顧客のオフィスで、親しい同世代の社長であるお客様と、ジジはその時の話を武勇伝のように語っていました。

私はジジの鞄持ちでそのオフィスに同行していましたが、契約書類の確認や重要事項説明などを担当の社員としていたので、その武勇伝については小耳に挟んだ程度で定かには記憶していません。(たしか、麻袋を穴がずれるように2枚重ねにして…だったかな?)

「いや、助かりましたよ。マッペは粉じゃないから、その工夫で漏れなかったです。」

「そうだよなぁ。粉だったら小さな穴でも漏れるもんね。」

「昔だったから、まだ混乱期だったから出来た芸当ですよ。」

「戦後間もない頃は今ではコンプライアンス的に考えられない事もやったし、ありましたねぇ。」

お客様もジジも、戦後の高度成長期前の時代を懐かしむように、かつての仕事談義に盛り上がっていました。

強く印象深く

ジジは直前に自分がやった事すら覚えていない事が増えてきました。たぶん認知症なのだと思います。

10代の頃の記憶はあるのですが、本人によると、そこから現在までの約75年間分があやふやらしい。

それなのに、うたた寝で何か夢を見たのでしょうか?

20代の頃の特に印象深い記憶が70年を経て蘇り、それがあたかも現在進行形のトラブルのように感じて動揺してしまう。そして不思議なことに,その記憶は微妙に改変されているのです。

いえ、そうではなく、過去の記憶をベースとした妄想なのかも知れません。

やはり人間の脳は不可思議ですね。

オネコさんによると、ジジは翌日10月1日の朝には麻袋の件を忘れていたけど、夕方には蒸し返していたそうです。

「チャーコさんはどうしてるの?問題は解決したのかなぁ?」

「何の問題?」

「ほら、麻袋の検査だよ。」

その後、ジジは麻袋の件は忘却したようです。



本日アップの貼り絵

2021年1月11日の作品です。

私にはお座りをしている犬のように見えます。(๑˃̵ᴗ˂̵)

(↓)おママは自分で貯めた小さな紙片を見つけて、早速,構成を考えています。

(↓)熱心に考えているので,私は台紙に使っている手漉き和紙のハガキをおママに渡しました。面白い形になりそうですね。

(↓)まだ糊をつけていません。ピースを動かしながら、おママは試行錯誤を楽しんでいました。

(↓)小津和紙で購入した友禅紙です。

(↓)私の義母クレバァの遺品に有った和紙。

(↓)本日アップの貼り絵を制作したのと同じ日に、おママはこの貼り絵も制作していました。

harienikki.hatenablog.com

おママの貼り絵を見てくださり,有難うございます。