アルツハイマーとともに〜おママの貼り絵日記〜

アルツハイマーの母(おママ)が作った貼り絵と暮らしを紹介しております。

お出掛け(2007年)

  2007年1月末にアルツハイマー認知症と診断された当初、

おママはアリセプト服用の副作用で頭痛や不眠、不快感がありましたが、徐々に落ち着いてきました。

f:id:harienikki:20170325171842j:plain

                    <広告写真から切り抜いて貼ったとみられます。>

                        (2007年6月24日  診断から約5ヶ月) 

   

季節は移ろい春から初夏になり…。

 

   ジジの趣味は写真撮影です。

以前から気が向くと、おママを誘い写真を撮りに出掛けていました。
この年も歩いていける距離の公園やお寺だけでなく、
巣鴨の刺抜き地蔵、原宿、井の頭公園…などなど。
おママは
「どうせ荷物持ち」
と文句も言いますが、小ぶりの三脚を持ってジジの後を付いて歩く。

そんな微笑ましい姿が思い出されます。

 

   この頃から、おママのお出掛けには誰かが同行したり、送り迎えをするように心掛けました。
当然の事ですが、診断から日が経つにつれ、アルツハイマー認知症であるとの自覚はおママの頭から消え失せて…。

   そうなると、本人のプライドがこれを認めません。
「1人で行けるわよ。大丈夫よ。いつも、行ってるんだから。」
そう言い張ります。

  そして、私達の都合が付かない時は、1人でも出掛けてしまいました。


  親交の深い友人宅。行き慣れたデパートで開催される旧友の個展。

どちらも自宅から30分から40分くらいの行程で、帰り一緒のお友達がいれば、

まだなんとかなります。

   しかし、肺癌の手術跡の診察のため東京医大の整形外科へ1人で行った時は、先生のお話を家族が確認する事もできず、本当に困りものでした。


  なにより、無事に帰れて良かったです。おそろし〜。(笑)

 

女学校時代から続く仲良しさん達、古典講読会の友人。

皮工芸や工芸金箔のお仲間…。

おママには多くの方々とのお付き合いがありました。

そして、集りや会食のお誘いは多かったと思います。


おママがこれまで培ってきた人間関係は、なるべく断ち切りたくない。

だから、私達はおママが参加できるようにしたいと思いました。
それで、事前に会食会の幹事さんにおママの現状をお話しして、ご理解を頂いてから参加する場合もあったのです。

 

「付いて来なくても大丈夫よ。」
「私もその近くのお店で買いたいものがあるから、ついでなのよ。」

オネコはそう言いくるめて、おママをさり気なく送り迎えしました。

f:id:harienikki:20170325171912j:plain

   <ストールでしょうか?マフラーでしょうか?上の貼り絵と対になっています。>

                          (2007年6月24日  診断から約5ヶ月) 

MRI (涙)

   認知症の診断の時に、おママはMRI検査と血流検査(SPECT検査)を行いました。
その当時は検査についてあまり関心も知識も無かった私。

でも、私は去年(2016年1月)受ける機会がありました。

MRI検査って…。(涙)

 

f:id:harienikki:20170325172216j:plain

  < 「シュガーバターの木」の包装紙を使っています。あのお菓子の美味しさや雰囲気が何処となく残っているような…。本人にそんな意図はなかったと思いますが。>             

                          (2016年1月20日  診断から約9年)

 

   この検査は認知症の診断だけでなく、脳の疾患を見つけるためにも行われます。「Magetic Resonance Imaging」の略で、日本語に訳すと「核磁気共鳴画像」です。

ちょっと怖そう。(涙)

   強力な磁場の中に画像の欲しい部位を入れ、その生体を構成している原子核に対して磁力を通します。そして、共鳴の違い(振動の違い)を画像にする検査。
この磁場は筒状に巻かれたワイヤー(コイル)に電流を流してつくられるので、MRI検査機はドーナツ状をしているのですね。

  CTやレントゲンと違い被曝の心配もありませんし、安全性の高い検査と言われています。

 

  おママがMRIを受けた時、
「音がガンガン鳴って、辛かったみたい。気分が悪くなっちゃってね。」
付き添っていたオネコがボヤいていました。
私はこの時は
「そうなの〜。気の毒」
と、半ば他人事でした。

 

  それから月日が流れ、9年後の2016年1月に、私は慢性的な頭痛のためにMRI検査を受ける事になりました。

閉鎖的な機械の中で、

ダッダッダッ!
ガッガッガッ!

という大音量が首から上を襲います。

ヘッドホンをしていたにも関わらず、私には音の暴力でした。


検査スタッフの方から事前に説明を受けていましたが、想像を超えるレベルでした。

我が身に降りかかって初めて分かる事。

MRIもそうでした。
「おママ、つらかったね〜。」

私は他の人より音に過敏なのでしょう。騒音が原因で偏頭痛が起きます。

造影剤を使わなかったのに、その後、吐気と頭痛で1時間も起きられず、病院の処置室で伸びていました。

 

  2007年のおママは今よりまだ記憶力があり、検査を受ける状況を納得出来たと思います。
でも、今はどうなのでしょうか?

 

  認知症がかなり進んでしまってから検査をなさる方もいらっしゃると思います。
30分くらいかかる検査に耐えていらっしゃるのですね…。(涙)

 

個人差のある事で、私が弱っちいのだと思います。

でも、もう一度受けろと言われたら、私は耐えられるか?
あ〜、きつい…。(涙)

将来、私が認知症を疑われて検査を受ける日が来たとしても、MRIは受けたくない。
そう、娘のアズキに言っておきました。覚えていてくれたら良いのですけど…。(笑)

貼り絵は救い(2007年の事)

   最近、2007年当時の事をオネコとよく話します。

なにせ、10年前ですから、曖昧な事も多くて、確認し合わないとなりません。(笑)


  2007年から数年間にオネコが書き留めていた記録が有るのです。

だから、私も何とか自分の記憶を掘り起こす事が出来ます。

あの頃オネコはどんな風に思っていたのでしょうか?

f:id:harienikki:20170325172325j:plain

                     (2007年6月 診断から4、5ヶ月くらい)

 

「私も不安がないわけではなかったけど、

近くへ引っ越すことを決断した時点で1年後ぐらいには介護が始まるだろうと覚悟決めちゃってたから、おママが診断受けてからは、もうあまり不安はかんじなかったかも。

病院にかかって薬も飲んでるから、あとは近くで見守りつつ、

なるべく長くジジとおママの二人でできることをやっててもらえればよいんだからと開き直っちゃった感じだった。」

 

   オネコの方が私より早く開き直っていたのですね。
5月に近くに越してきて、以前より実家に来る事が多くなったオネコはおママの様子をこう見ていたそうです。

 

「おママがしんどいのは当然だったろうと思うよ。

不安だからというより、一つ一つのことが現実にかなり頭を駆使してがんばらないとこなせなくなっていたんだろうから。

なんだかいろんなことがうまくできなくなってると実感してたんじゃないかしら。」

 

「おママは前みたいにいろんなことがてきぱきはできなくなって、

誉められることがすくなくなっちゃうなか、やはりあの貼り絵は救いだったよ。

誉めることがあって私も嬉しかった。

引っ越したばかりの頃は貼り絵をもらったり、この模様好きだから、私にも作ってとお願いしたりしていたの。

誉めることがあると言うのは本当におママにとっても私にとっても救いだったよ。」

 

f:id:harienikki:20170325172356j:plain

                    (2007年6月頃 診断から4、5ヶ月くらい)   

 

   オネコはずっと、おママの貼り絵を小さな額に入れて飾っていますね。

 

   2007年9月下旬から、ほぼ全ての貼り絵の裏面に日付が記入されています。
これはオネコがジジとおママに勧めて、その習慣付けをしてくれたからです。

 

  おママ自身は今だけを生き、過去はありません。

でも実際は日々の積み重ねがありました。

 

   日付け順にファイルに納められた貼り絵たちは、消えてしまったおママ自身の時間を具現しています。

この10年間を貼り絵によって辿れる事は今のおママにとっても、

私達にとっても救いです。

 

 

変わらぬ暮らしの中で(2007年の事)

    このところ現在の暮らしや、貼り絵制作に関する話が続いていました。

でも、過去の事も少しずつ書いていけたら良いなと思います。

 

     おママがアルツハイマー認知症と診断された頃、

おママ自身はどんな思いでいたのか? 私は気になります。

ただ、10年前の心境を現在のおママに聞くのは無意味です。いまや、5分前の記憶も定かではないのですから。

f:id:harienikki:20170325172543j:plain

                          (2007年6月  診断から4、5ヶ月)   

 

    あの頃、もっとおママの心に寄り添って、聞いてあげるべきだったのか?

おママはいつ頃から自分の病気について忘れ果てたのかも、今となっては知りえません。

その点、後悔の念もあります。

   結局は、当時、娘である私達が何を思い、どう受け止めていたか。

それしか書けないと思いました。

 

おママは73歳でアルツハイマー認知症と診断されました。

高齢者の範囲に入りますが、80代でお元気な方が多い昨今です。実際、84歳で亡くなったおママの母親は、その前年まで元気に銀座へお買物に出掛けていました。

 

それに比べても、
早すぎないか?

 

   あんなに診断されてアリセプトを飲んで欲しいと熱望していた私。

実はこの頃、かなり落胆していたし、この先を考えて不安でした。

今振り返れば、おママの人生が終わってしまったような気持ちだったのでしょう。

 

  しかし、この年(2007年)の初夏に、私は考えを改めました。

 

  たとえ、アルツハイマー認知症の診断を受けても、生きている限り、必ず明日が来て、明後日になります。終わりではないのです。

 

  実際、おママの場合、数ヶ月、半年経っても、ほぼ変わらぬ暮らしが続いていました。
オネコが近くに住み始めても、ジジとの2人暮らしに変わりはありません。
おママは時間の経過とともに自分の病気を忘れていくようでした。

そして、マイペースではありますが、本人はやるのが当然と思って、家事や御三どんをしていました。

 

f:id:harienikki:20170325172614j:plain

                              (2007年6月  診断から4、5ヶ月)

 

  どこまでいけるか⁉︎

 

  記憶力は非常に危ういが、長年培った家事能力は健在です。本当に出来なくなったり、やりたくないと言い出すまでは…。続けてもらおう。

 

   当時、私の家から実家まで、5路線を乗り継ぎ、所要時間は1時間半以上でした。
落胆だ不安だと思うわりには、手も足も出さない。今思えば無責任な娘でしたわ。

多少罪悪感もあったのですが、電話でジジから貼り絵を毎日やっていると聞き、少しホッとしていました。

 

  貼り絵は家事と同じように、発症以前からおママの日常に組み込まれた活動だったから、続いたのかも知れませんね。

切って切って❗️

   1ヶ月ほど毎日更新していましたが、昨夜は途切れてしまいました。

寒い夜でしたね。

発熱、頭痛、吐き気で悶絶している娘のアズキを見るに見かねて、私は119番を決意しました。

救急搬送して頂き、ありがたかったです。。

待合室の椅子にへたり込み、ホッと一息ついた時に、更新の事を思い出しました。

「しゃあないな〜。」

幸い1日入院だけで済みました。

  お医者様、看護師の皆様、ありがとうございました。

 

f:id:harienikki:20170325173057j:plain

                          (2017年1月31日   診断からまる10年)

 

  高齢の親がいると、いつ何時何があるか分かりません。

慌てて実家に駆けつけたり、顔を強張らせて119番をする事があって不思議はない。

  それは想定済みでしたが、まさか…、アズキでしたか…。

老若男女問わず、人って何があるか分かりませんね。(溜息)

あっ、ジジとおママですか?

低空飛行ながら、今日も元気です。何より何より…。

 

   寒い日の夕方に、おママは上の貼り絵を作っていました。

一心不乱に千代紙を切り抜いているのです。

私はおママを呼びにいったのですが、あまりに熱心にハサミを使っているので、

(夕飯の支度が出来ましたよ。)は言えませんでした。

切り抜きたい、切りたい、切りたい!

これはその思いだけで仕上げた貼り絵です。

 それにしても…。おママ、眼はよく見えてるみたいね。

f:id:harienikki:20170325173123j:plain

 

今日の歌舞伎は?

  オネコは不安がっていましたが、今日の歌舞伎鑑賞は全く問題なかったそうです。

居眠りもせず、3階席からオペラグラスを駆使して、すっかり、楽しめたようです。
隣に座っているオネコも安心してお芝居を堪能できないと、行く意味がないですもの。

良かった。良かった。

気を良くして、オネコは来月も2人で行く気満々です。

 

f:id:harienikki:20170325173512j:plain

                       (2017年2月6日  診断から約10年)


  認知症が進んでくるとストーリーを追うのが難しくなります。

おママもそうなんですよ。ドラマとかあまり見ていません。

 

  じゃぁ、なんで歌舞伎は良いの?
と、私も以前は思いました。


   これは推測ですが…。(おママ限定です。)
若い時から歌舞伎が好きで慣れ親しんでいた。これが大前提としてあります。


  そして、歌舞伎の舞台は舞台美術も衣装も色彩豊かです。

目に入るものは、すべておママが大好きな図案や文様であふれています。

役者の化粧も隈取りは図案ですね。
おママはストーリーを気にせずに、目に映る華やかさと役者の動きを楽しんでいるのではないかしら。

 

   今日はお出掛けの支度も順調だったようです。(笑)
朝からジジの声掛けもあり、オネコが実家に迎えに来た時は、

すでにお出掛け用のセーターに着替えて、お化粧中。

(素晴らしい〜!)

ちょいとオネコが用事を済ませて、
さぁ、用意万端。これなら間に合うと胸を撫で下ろして、いざ出発!

 

しかし、玄関を出て明るい外でおママの顔を見たら…‼️
おママ!いや〜ん!

「眉毛が赤ーい‼️」

眉墨(アイブロウ)が無くなってから買っていなかった!
で、口紅ですね…。

  そう、無理もないか。
おママの口紅は外国のお土産です。

リップスティックは濃紺ですが、唇にぬった後からピンクに発色するタイプ…。
う〜ん。眉墨と口紅を間違えて、紅筆で眉毛に付けたのね。(笑)

  時間がなかったから、オネコは玄関で、たまたま持ってたワセリン塗って、ティッシュでこすりました。

そして、2人は急いで出掛けて行きました。

 

  おママの瞼がほんのりピンク色。セーターとコートがエンジ色で髪も白いから、かえって綺麗なくらいでしたとさ。
怪我の巧妙ですね。

 

何はともあれ、おママ、楽しい歌舞伎観劇で良かったね!

 

アイブロウは早速買いました。(笑)

歌舞伎鑑賞

   オネコはよくおママと歌舞伎を観に行きます。

これは長女の粋な親孝行です。

と言っても、経済的な問題から3階席での鑑賞ですよ。(笑)

   おママは親の影響もあって、子供の頃から芝居が大好きでした。
昔の芝居と言ったら、歌舞伎か新派です。
今でも、
「今日は歌舞伎座に行くのよ」
と私が言うと、目をキラキラさせます。
うれし楽しいお出掛けは、記憶に残らなくても、心に明るい印象を残すように思います。

まぁ、粗相がないから出来ることですが…。

 

   明日は母娘の歌舞伎鑑賞ですが、オネコはなんだかソワソワしています。

「大丈夫かしら…。」

 

   前回はちょっとだけ困った事が発生したようです。

 

f:id:harienikki:20170325173622j:plain

               (2016年11月26日  診断から約9年10ヶ月)

 

   3階席からの鑑賞は幾分、上から舞台を見下ろす感じになります。

そうすると、役者さんたちは実際の体型より若干、身長が詰まって見えるのです。
お顔が大きめで少々恰幅のいい役者さんは余計に頭が大きく見えます。

 

    これは前回の歌舞伎鑑賞の時の事…。

   いつものように、笑顔で歌舞伎の世界を楽しんでいたおママです。

しかし、最後の舞踊の演目で、まさにそんな役者さんが花道から出て来ると、

「あらっ小さい子じゃない?誰かしら?」

と、囁くのです。おママの目には子供体型に見えてしまったか…。
周囲の目もあり、小声で教えて上げても、すぐに繰り返します。
「後でね」
と無視すると、筋書きを必死でめくって探そうとしますが、たどり着きません。

「誰かしら?子供よね?」
「子供よね?」

子供が華麗に舞っているわ!
そんな、感動にとらわれて、おママはこの役者さんが気になって仕方なくなってしまったようです。


「子供よね?」

いえ、子供じゃありませんから!

 

  賑々しくも華やかな公演だというのに…。
ヒソヒソ話でも憚られるというのに…。

消え入りたいとはこの事でしょう。

オネコはじっとり冷汗をかきながら思ったそうです。

『はやく終わって〜!』

 

 通路ぎわの端っこの席ですし、スタッフの方からご注意を受けない程度の事でした。

でも、ヒヤヒヤものですね。

10年近くオネコはおママと歌舞伎を観ていますが、

こんな事は初めてだったそうです。

 

 今月は件の役者さんは出ておりませんし、演目も違います。

 

おママ、明日は楽しんできてね!(無事にね!)