あの頃…、診断から4ヶ月くらいの時の事です。
ジジにおママの様子を電話で訊くと、
「薬(アリセプト)は飲んでるよ。元気だよ〜。」
と、当たり障りのない話ばかりで、取り立てて深刻な気配はありませんでした。
ちょっと安心…。
でも、おママは落ち込んでないか、楽しみもなく無気力になってないか。
気になるところをジジに聞き出してみると、
「貼り絵はやってるけど、テレビを見ても余り関心ないみたいね。」
そうなのか…。
ドラマから報道番組まで、おママは割と興味を持っていました。それに、私が家を出るまでは、一緒にドラマを見ながらツッコミ入れて楽しんでましたが…。
「ドラマは見ないね〜。
見てるのかと思っても直ぐにテレビの前から居なくなるし。」
ストーリーを追っているうちに疲れてしまうのか?
少し前のストーリー展開も忘れてしまうのか?
ジジとそんな話をしました。
(それなら何度も観てよく知ってる映画なら楽しめるかも知れない!)
(2007年6月頃 診断から4、5ヶ月)
おママが大好きだった往年のハリウッドスター、ハンフリー・ボガートとイングリット・バーグマンの『カサブランカ』なんてどうかしら?
その映画はおママの大のお気に入りです。(米国公開1942.日本公開1946)
ハンフリー・ボガートのキザな2枚目振りとイングリット・バーグマンの美貌。
ドゥーリー・ウィルソンが歌うテーマ曲『As Time Goes By』は哀愁をそそります。
それで、私はDVDを実家に持参しました。
まぁ、今考えれば大きなお世話だったかも…。(笑)
顛末を語れば、私はあえなく玉砕しました。
「ねぇ、『カサブランカ』みない?DVDを見つけたの。懐かしいでしょう!」
「あら、ほんと!観ましょうか。」
そして、映画鑑賞は順調に始まりました。
「バーグマンは綺麗ね〜。」
「そうね…。」
しかし、おママは懐かしがりもせず、きょとんとしてます。しまいには、
「画面が暗いわね〜。」
という始末。
そして、20分もたたないうちに席を立ち、私が気が付けば作業机に向かって貼り絵に没頭してしまいました。
白黒映画がいけなかったか?
おママにはもう懐かしくなかったのかしら?
昔、好きだったものより、
今のこの瞬間にやりたい事を優先しただけかも知れません。
それとも、若い頃に好きだった事を忘れているのか?
この時、私は思いました。
アルツハイマー型認知症の場合、昔の事も徐々に忘れていくのですね。
淋しいけど…。
それに考えてみれば、『カサブランカ』の件はおママのためというよりは私のためでしたね。
もう何十年も昔、おママが大好きだという映画がテレビで放送されました。
私は目を輝かせておママと観ていた…。バーグマンの美しさに見惚れて…。
その少女時代の追憶にふけりたかっただけですね。
私ひとり空回りでした。(笑)
(2007年6月頃 診断から4、5ヶ月)