アルツハイマーとともに〜おママの貼り絵日記〜

アルツハイマーの母(おママ)が作った貼り絵と暮らしを紹介しております。

連作完成❗️

  2月になってからよく登場していた包装紙。

シックな地色に白いかすれたかすれた線模様が持ち味です。

 

 2月16日の昼前、おママはその模様に沿って、やたらチョキチョキしていました。

「全部、切ってしまうの?お気に入りの包装紙が無くなるわ。」
私が心配しても、どこ吹く風風です。

 

「いいの。切り抜きたいのよ。」

 

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     (2017年2月17日  診断から約10年)連作の1つ

 

 少し茶色に触れた煙たい灰色の、花びらかしら、

葉っぱかしら、ざっと20片以上出来ました。

 

(あれ、どうしたかしら?)
そう思いつつ、その日の午後は忙しくて、おママを構う事も出来ませんでした。


  翌日、実家でおママの作業机を見ると、例の紙片は跡形もありません。
「あら〜?おママが昨日たくさん切り抜いていたヤツはどうしたかな〜?」
私がぶつぶつ言っていると、

側で雑誌の写真を眺めているおママはキョトンとしました。


「なぁに?私はそんな事していないわ〜。知らないわよ。」
ちょっと不機嫌ですね。

おそらく切った事も貼った事もお忘れでしょう。

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<チョキチョキ中です。膝の上には切り抜く前の包装紙がありますね。

   作業机には切り抜きパーツがあります。>

 

  私は確信を持ってファイルを開きました。

有りました!

そこには前日2月16日とその日2月17日の日付が入って、

しかも4連作!


「有ったわ!すごーい!昨日いっぱい切り抜いた形を、全部使い切ったのね。」
私がおママを褒めたら、
「あら、そう?」
と、ようやく穏やかな笑顔になりました。

 

「私は何でも無駄にしないのよ。」

「…?」


  貼り絵のパーツについてかしら?

いえ、おママの頭では暮らし全般のお話にすり替わっているようです。
「そうですね…。」

確かに、おママは戦中戦後の物資乏しい時代に育ちました。

胸を張って、そう語るのは分かる…。

 

  でもですよ…。
口に出しては申しませんが…。
おママは食べ物をちょっとづつ残して、冷蔵庫の奥で干からびさせてますね〜。

それを捨てているのは、オネコと私ですが…。(笑)

 

 

 

手のひら

  この手形…。

見覚えのある方もいらっしゃるかな…⁉︎(笑)

先日、おママはオネコと歌舞伎を観に行きましたが、

その時に持ち帰った歌舞伎座ギャラリーのチラシからとっております。

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    (2017年も2月11日  診断から約10年)


   オネコの話では、そのチラシに興味津々だったようです。

「この手が面白いから、使いたいわ〜。」
おママは嬉しそうにチラシを2枚持ち帰りました。

 

「本当に使ったのね〜。」

オネコも嬉しそうです。

 

   おそらく帰宅途上で、これを貼り絵の材料にしたいと思った事は忘れてしまったでしょう。
それでも、家に帰って再びチラシを手に取れは、

手のひらの魅力的なデザインに心が揺さぶらたに違いありません。

おママの心にプラスの揺らぎが起きないと、貼り絵の材料にならないのですね〜。

 

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元のチラシはこのポスターと同じデザインです。

ポスターは手のひらの上部が隠れていますね。チラシの手のひらは完全です。

(2017年2月19日  歌舞伎座5階で撮影)

 

harienikki.hatenablog.com

 

ドラえもん

 

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            (2017年2月10日 診断から約10年)

 

    アルツハイマー認知症を患っている大山のぶ代さんの夫・砂川啓介さんが

17日のTBS「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」に出演し、

大山さんの近況をお話しされたそうですね。

私は未損ねました。若年性アルツハイマーのお話もあったようですね。

ネットの記事で知り、残念。見ればよかった…。

 

ドラえもん」も忘れてしまった大山さん。


  悲しいけれど、そうだろうなと思います。


  記事を読んで私が一番印象的だったのは、砂川さんのこの言葉です。

 

「2人で作ってきた思い出は一切彼女にない。それがなんとなく切ない。」

 

   私も同じことを思います。


おママの頭の中には子育てしていた時期の事も、

必死で我が子を叱った事も、幸せなお祝い事も、

そして家族や親兄弟の思い出もないと思います。


  切ないです。(涙)

  でも、まだ、おママも日々を積み重ねています。


  その中に、笑いや喜びもあるはず。

私はその切なさを受け止めながら、

おママに笑顔を届けたいなと思うこの頃です。

 

www.hochi.co.jp

 

マーブル

   在庫の紙の中にマーブル染が何枚かあります。

それを使ったのですね。懐かしい。

おママは皮工芸ををやっていた頃からマーブル染が好きでした。

 

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          (2017年2月10日 診断から約10年)

 

   この貼り絵に使ったマーブル紙は、恐らく15年くらい前に、おママが自分で染めた物だと思います。

 

   ヨーロッパの職人さんが染めたマーブル紙も買っていましたが、

それはもっと精緻で、マーブルには統一のとれたリズムと美しさがあります。

おママのマーブル染はすこし乱れがあるのですが、そこがまた魅力。

 

  マーブル染は自宅で染められるのですよ。

大きいバットに水に溶いた専用の糊を張り、そこに染料をポンポンと落します。

針金で手作りした目の荒いクシで染料をマーブル模様にします。

それから、紙を乗せる。

ある程度、プランを立てて染料を落して、動かすのですが、

紙を被せる時に、思う通りにいかなかったり…。

そこがまた、楽しかったみたい。

 

   認知症の診断を受ける前年の夏に、私の娘のアズキはおママとマーブル染めをして、それを夏休みの自由研究にしました。アズキには楽しかった良い思い出です。

 

   下の写真のマーブル紙もその頃に染めたものです。

和紙に墨汁と桃色の染料で染めました。

あの頃は「失敗したわ」と嘆いていたのも懐かしい…。

マーブルを専門になさっている方から見れば、拙いかもしれません。

でも、なかなか面白い。私はそう思います。

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いたい、いたい。

  丑三つ時にはちと早い、夜中の1時半。
「いたい、いたい、いたいよ〜。」
と言う女の啼き声で、ジジは目が覚めた…。

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      (2017年2月4日  診断から約10年)

 

  見ればおママが寝床の上に座り込み、何やら口を触っているではないか。

いや、口ではなく舌でした。

 

「どうしたの?」
「舌がいたい。」

しきりに手で触ったり、ティッシュで舌を拭いていたそうな。
おママにべーっと舌を出してもらい、よく見ますと、舌先に傷が有ったとさ。

「噛んだのかな〜?」
「どうしたんだろう。寝てるうちに噛んだのかしら?」


 ベタベタ舌を触ると非衛生的です。

ジジはおママに水で口を濯ぐように勧めました。

「唾はバイ菌を殺すからね。そっとしておいた方が良いよ。触らないでね。」

 

   ジジがおママを寝かしつけても、
「舌がいたい。いたい、いたい。」
「なんでいたいんだろう。」
そんな文句は、おママが草臥れて眠りにつくまで続いたとさ。

 

  翌日、眠そうなジジは私にひとしきり話すと嘆息しました。
「もう、こうなると子供と同じだよ。駄々っ子みたいで…。」

 

いやいや…、違うってば…。

 

  駄々っ子は甘えて我儘を通そうとしているのよ。
つまり、分かってやってるのです。

  でも、おママはね。すぐに記憶が無くなるから、マジで、全く分からない。

それで、何度も言い募ってしまうのです。

 

  この話を反芻しながら、私はふと思いました。
眠りながら舌を噛むって⁉️どう言う事か?
どんな夢を見たのかしら?
もし、眠りながら舌を噛み切ったら…。危な〜い!

 

  夜の騒動もなんのその。朝になったら、おママは痛い訴えることもなく、

平気で朝ご飯を食べたそうな。


 大した事なくて良かったのですが、あれは何だったのか?
ジジは狐につままれたような気がしたとさ…。(笑)

回らないわ❗️

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       (  2016年 9月29日  診断から約9年 8ヶ月)

 

午後一時半。


ジジと私が出掛けていたから、遅いお昼ゴハンになってしまいました。
おママ、ごめんね。

スーパーのメンチカツとイカフライを1つづつ買ったから、

3人で食べられるように、切り分けようね。


お湯沸かしてインスタントのスープを飲みましょう。
プチトマトも買ってみたから食べて見ましょうね。

 

私が昨夜の残りご飯を電子レンジに入れて温め始めたら、
おママはその前に陣取って、中を眺めているのです。


「ねぇ、これ、回らなくていいの?
回転してないわよ。大丈夫なの?」

おママはしつこく言い募ります。


私は一瞬フライを切り分ける手を止めました。


二年前、実家は電子レンジが壊れて新調しています。
確かにその前は回転皿のあるレンジだったわ。

 

毎日使っている電子レンジが認識できない事を嘆くべきか?
回転皿つき電子レンジを覚えていた。それを喜ぶべきか?

 

私は二年前の記憶がある事が、ちょっと嬉しかったわ。

昔好きだったものでも…。(2007年夏)

   あの頃…、診断から4ヶ月くらいの時の事です。

ジジにおママの様子を電話で訊くと、
「薬(アリセプト)は飲んでるよ。元気だよ〜。」
と、当たり障りのない話ばかりで、取り立てて深刻な気配はありませんでした。
ちょっと安心…。

   でも、おママは落ち込んでないか、楽しみもなく無気力になってないか。
気になるところをジジに聞き出してみると、
「貼り絵はやってるけど、テレビを見ても余り関心ないみたいね。」
そうなのか…。

ドラマから報道番組まで、おママは割と興味を持っていました。それに、私が家を出るまでは、一緒にドラマを見ながらツッコミ入れて楽しんでましたが…。

「ドラマは見ないね〜。

見てるのかと思っても直ぐにテレビの前から居なくなるし。」

 

トーリーを追っているうちに疲れてしまうのか?

少し前のストーリー展開も忘れてしまうのか?
ジジとそんな話をしました。

 

(それなら何度も観てよく知ってる映画なら楽しめるかも知れない!)

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                             (2007年6月頃  診断から4、5ヶ月)

 

  おママが大好きだった往年のハリウッドスター、ハンフリー・ボガートイングリット・バーグマンの『カサブランカ』なんてどうかしら?

その映画はおママの大のお気に入りです。(米国公開1942.日本公開1946)

ハンフリー・ボガートのキザな2枚目振りとイングリット・バーグマンの美貌。

ドゥーリー・ウィルソンが歌うテーマ曲『As Time Goes By』は哀愁をそそります。

 

  それで、私はDVDを実家に持参しました。
まぁ、今考えれば大きなお世話だったかも…。(笑)

 

顛末を語れば、私はあえなく玉砕しました。

 

「ねぇ、『カサブランカ』みない?DVDを見つけたの。懐かしいでしょう!」
「あら、ほんと!観ましょうか。」

そして、映画鑑賞は順調に始まりました。
「バーグマンは綺麗ね〜。」
「そうね…。」
しかし、おママは懐かしがりもせず、きょとんとしてます。しまいには、
「画面が暗いわね〜。」
という始末。
そして、20分もたたないうちに席を立ち、私が気が付けば作業机に向かって貼り絵に没頭してしまいました。

 

白黒映画がいけなかったか?
おママにはもう懐かしくなかったのかしら?

 

  昔、好きだったものより、

今のこの瞬間にやりたい事を優先しただけかも知れません。
それとも、若い頃に好きだった事を忘れているのか?

 

  この時、私は思いました。
アルツハイマー認知症の場合、昔の事も徐々に忘れていくのですね。
淋しいけど…。

 

   それに考えてみれば、『カサブランカ』の件はおママのためというよりは私のためでしたね。

 

  もう何十年も昔、おママが大好きだという映画がテレビで放送されました。

私は目を輝かせておママと観ていた…。バーグマンの美しさに見惚れて…。
その少女時代の追憶にふけりたかっただけですね。

 

  私ひとり空回りでした。(笑)

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        (2007年6月頃 診断から4、5ヶ月)