(2018年1月24日アルツハイマー型認知症の診断から約10年11ヶ月)
*おママの独り言
先日の午後の事です。おママは作業机の椅子に座っていました。しかし机に向かうでもなく、何か膝の上のものを読んでいました。
私が近づくとおママはブツブツつぶやいています。
「1999年4月 A先生の死去により遺品の整理にともない、この本をいただく。2000年3月29日。田中芙貴子」
大きな洋書を開き、その中表紙に昔自分で書いた文字を繰り返し読んでいるのです。
私はそれを見て、遠い記憶が蘇ってきました。
*18年前の事
私が小さいアズキの子育てに追われていた頃。
それはおママに会った時に聞いた話でした。
「あなた、A先生を覚えてる?」
「うん。お母さんがグループ展をした時に観に来てくださったでしょ。その時、ご挨拶したもん。」
「そうだったわね。」
おママは40代の前半から東京YMCA皮工芸学院でレザークラフトを学び講師認定を受けました。A先生は革工芸界で実績のある方で学院トップの先生でした。A先生の本を見て、その指導を受けたくて、おママは教室の門を叩いたのです。
「そのA先生は去年亡くなったのよ。それで1年近く経った今頃になって、先生に近い講師から連絡があったのよ。」
どうやら、先生の遺品を下さるらしい。だいたい先生と交流のあったお弟子さん達は頂いたのですが、この時点で何人か残っていたとか。それで、おママにも声がかかったらしいのです。
「それでね、…………を頂いたのよ。」
おそらく何を頂いたか、私はおママの口から聞いていたはずです。なにせ子育て中(言い訳でーす❗️)だから、さほど関心もあるわけでなく、右から左に聞き流しました。結果として、私の記憶に残りませんでした。
*この本だったのか‼️
その遺品分けで頂いたのは洋書だったのですね。
ヨーロッパの伝統的な製本・装幀技術の第一人者ティ二・ミウラさんの著書で作品のカラー写真もたくさん掲載されていました。
おママは美しい作品写真を見てから、再びまた同じ文章を読み上げました。そして、まるで昨日の事の様に言いました。
「何人かで呼ばれたのよ。こんなに重くて大きな本は誰も持って帰らなかったのね。残っていたのよ。」
「そうだったの…。」
18年前のあの時も、おママは私にそう語っていたのかもしれない…。
(おママ、ちゃんと聞いていなくてごめんね。)
若い頃から本の製本や装幀に興味のあったおママは、レザークラフトに打ち込んだ後、自然とヨーロッパの伝統的な革による製本・装幀技術(ルリユール)に魅かれていきました。その技術の一部である工芸金箔(革の上に箔押し)やモザイク(薄く削いだ革を別の色の革の上に埋め込む技法)マーブル染に打ち込んでいったのです。
このルリユールの世界的な芸術家であるティ二・ミウラさんに、おママは憧れと尊敬の念を抱いていました。短期の講習会で夫である三浦永年さんに習ったこともありました。
A先生の遺品の中からこの洋書を見つけた時はとても嬉しかったでしょう。
その強い思いが、おママの海馬の底から記憶を呼び覚ましたのかもしれませんね。
私は胸が熱くなりました。
⬇️ ティ二・ミウラさんのHP
http://www.tinimiuraartgallery.com
その御本はこちら⬇️
⬇️ ティ二・ミウラさんの美しい装幀本。同書のカラーページより。
*もしかして…。
昔の記憶も失くなりつつある今日。
私が洋書のカラー写真を眺めるおママの姿に目頭を押さえた直後ですよ。ほんの数分後、本を置いてリビングに場所を移したおママは言いました。
「本?何の?私が見てたの?知らないわよ、もう何やったか分からないわ❗️」
つまり、美しい思い出は既に忘却の彼方‼️ (°_°)
でも、もしかして…。
おママは意外と頻繁に昔の記憶を鮮明に思い出していたりするのかも⁉️
問題はそれを少なくなった語彙で十分伝えられなかったり、あっと言う間に思い出した事すら忘れてしまうから、私達が気付いてあげられなかったりして…⁉️
そんな風に考えさせられる一時でした。
*本日の貼り絵について
赤い花が目に鮮やかに飛び込んでくるような、元気一杯の貼り絵です。
主たる材料は、再三登場して今後も登場するであろう下記のティッシュボックスです。厚紙なので切るのが大変そうです。でも、お気に入りなのでおママは一生懸命にハサミを使うのでしょう。
黄色の格子状の正方形も同じシリーズのティッシュボックスからとったらしい。
三角のウロコ模様は小津和紙で購入した千代紙です。
おママの貼り絵を見て下さりありがとうございます。