(装丁年月日は不明、1990年代から2000年代初頭ごろと思われる)
先月、おママの昔の作品が入っている引き出しの中を見ていたら、1冊の装丁本が見つかりました。
それが、一番上に載せた写真です。
今日は貼り絵ではなく、このおママのルリユール作品をご紹介したいと思います。
今となっては、おママは自分で装丁した作品も、全く覚えておりません。
「あら、これキレイね。どうしたのかしら。」
そう言って眺めるだけです。
「これはフキコさんが昔ご自分で装丁した本ですよ。」
「へぇ、そうなのね?知らなかったわ。」
いまいちピンとこないようでした。
若い頃に手に入れた古い本は大事にしていたけどボロボロになってしまった。
でも、捨てるに忍びない。
だから、60代になってルリユール講座の課題のため元々の装丁を分解して、本の中身だけを取り出しましょう。そして、新しくおママ自身がオリジナルの装丁を施したのです。
もう、おママはそんな昔の想いも忘れてしまったけど、作品はまだ綺麗に残っていますよ。
ね、おママさん。
*マーブルペーパーを主役に
おママは40代から革工芸を習い始めました。「アメリカンクラフトカービング」という、まだ染色されていないなめしたままの革に刻印や刀やヘラを使ってモデリングしていく技法です。
そして50代60代と興味の向くまま革による本の装丁技法に辿り着きました。
娘たちも大きくなり、姑の介護も終わり、まだ健康で元気だったこの時期、おママはとても楽しかったと思います。
やってみたかった、尊敬する芹沢銈介先生も取り組んでいらした本の装丁です。
認知症になる前のおママは目を輝かせながらルリユールの講習を受けて取り組んでおりました。
ヨーロッパの伝統的な製本技法(ルリユール)は革の表紙に金箔で飾りをつけます。そして表紙を開くと「見返し」に使われたのはマーブルペーパーでした。
このマーブルペーパーは自宅でも材料とちょっとした道具があれば出来ます。
元々、20代の頃に染色を習っていたおママはこれに飛びつきました。
私も、娘のアズキも、おママと一緒にマーブル染めをやった事があります。
でも、この染色技法は慣れないと、なかなかきれいなマーブル模様はできません。
難しいからこそ、やりがいがあるというものです。
おママは繰り返し、何度も何度も試しながらマーブル染めを楽しんだと思います。
普通、「見返し紙」として使うマーブルペーパーを表紙に使ってみる。
おママのマーブルペーパーへの強い思いが伝わってくる作品です。
*ルリユールとは(この部分は再掲です)
「ルリユール」はフランス語です。
意味はヨーロッパの伝統的な製本技法。
映画かドキュメンタリーなどで、ヨーロッパの歴史ある名家の書斎を見た事があるでしょうか? 書斎の壁面全体を覆い尽くす蔵書の全てに、その家独自の装幀を施されているのです。上等な皮革の上にはキラキラ輝く金箔で文様や紋章が入っている…。
想像するだけでも、ウッっとりするほど美しい本たちです。
ヨーロッパでは16世紀にグーテンベルクの印刷技術が普及して、本の出版は盛んになりました。
その頃は出版と印刷、製本の職分がはっきり分かれていなかったので、職人間で権利の間の揉め事も多かったそうです。
そこで1686年にルイ14世が「パリ市では出版、印刷の2業者と製本業者はお互いの職分を超えてはいけない」という御触れを出したとか。
以後、本は仮綴の状態で販売され、購入者は好みの製本屋にそれを持ち込んで製本してもらうというスタイルが定着していたそうです。
そうなると、富ある者は豪華な蔵書にしますね。そこまで上等にしなくても、自分オリジナルの装幀になるのですから素敵ですね。当時の人々にとって、今では考えられないほど、本は愛着のある貴重なものだったはずです。
本がおしなべて愛蔵本であった時代、ヨーロッパで培われた伝統製本技法がルリユールです。
参考にさせていただきました。⬇️ ありがとうございます。
(↓)今までにご紹介したおママのルリユール作品です。
*マーブルペーパーの装丁本
(↓)ピッタリとしたケースから出すと、このような装丁本です。
背表紙が弧を描くように膨らんでいます。あまり見かけない綴じ方のようです。
私は装丁の知識があまりないので、ネットで調べてみましたら、(↓)こちらのサイトを見つけました。
それによると、この綴じ方はとても古い技法で「ゴシック製本」のようです。
そういえば、昔おママがこの装丁本を見せてくれた時、
「今は珍しい綴じ方なのよ」
と言っていた事を思い出しました。
中身は新潮社から1968年に刊行された『シェークスピアのバースデイブック』です。
奥付は(↓)こちらです。
『新潮世界文学 発売記念』の非売品でした。
おママはずっと大事にしていた本と思われます。
因みに、この全集を50年以上前のジジとおママは購入したのでしょうか。全く私の記憶にないのですが…。
https://ameqlist.com/0sa/shin/zen_1968.htm
古典的な製本技法を学ぶために『シェイクスピアのバースデイブック』はとてもふさわしかったし、失敗はしない覚悟で元々の装丁を壊して綴じ直したのだと思います。
ケースは全面、本の装丁に使ったマーブルペーパーです。(↓)
そして、今回初めて気がついたのですが、
本の中身の「天」と「地」に、表紙、見返し、ケースとお揃いのマーブル模様があったのです。
これはマーブルペーパーが先にあったのではなく、おママのデザインが先にあったと言う事です。
(おママは気に入ったマーブルペーパーが染め上がったから製本に使ったのではなく、
『シェイクスピアのバースデイブック』と古典技法に使うために染めたんだね。)
感慨深いものがあります。
納得がいくマーブル模様が作れるようになるまで試行錯誤を繰り返して、
ようやく「これ❗️」と思えた時に、おママは表紙・見返し・ケースに使う紙と一緒に「天」と「地」も一緒に染めたのでしょう。
その試行錯誤の名残は、やがて「おママの貼り絵」に使われてきました。(↓)
これでも十分きれいだと思うのですが、やはり装丁に使われたマーブルペーパーには遠く及びません。
今年(2021年)も、おママは時々使っていました。(↓)
再掲(2021年4月26日 アルツハイマー型認知症の診断から約14年2ヶ月)
(2021年6月15日アルツハイマー型認知症の診断から約14年4ヶ月)
この貼り絵は「お題」でも「お題パック」でもなく、おママが自分で見つけてきたものを貼り込んだ作品です。
(2021年12月1日アルツハイマー型認知症の診断から約14年10ヶ月)
(↑)この作品は「お題パック」(↓)を使っておママが一人で仕上げた作品です。
今回の記事はおママが貼り絵をする前に取り組んでいた作品をご紹介しました。
まだ、何冊か装丁作品があります。来年も折を見てブログに載せていきたいと思います。
見にきて下さり,ありがとうございます。