アルツハイマーとともに〜おママの貼り絵日記〜

アルツハイマーの母(おママ)が作った貼り絵と暮らしを紹介しております。

親に忘れられた

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(2022年1月31日 アルツハイマー認知症の診断から約14年11ヶ月)

 

ジジよ今更…

先週の月曜日(4月11日)、処方薬が無くなりそうなので、私はジジとおママと一緒にかかりつけ医のクリニックへ行きました。

その待合室でのことです。

私達はジジを挟み横並びでソファに座っていました。すると、おママが小声でジジに言うのです。

「ね、あのかたは、だれなのかしら?」

どうやら、おママは私が誰なのかジジに訊ねているようです。

「えー、チャーコさんだよ。」

おママは腑に落ちないようです。

「次女のチャーコさんだよ。」

「じじょって、なに?」

ジジは激しく困惑気味です。

「あのねぇ…、次女っていうのは2番目の娘。それで長女っていうのは1番目の娘だよ。」

私は聞いていたのですが、言葉を挟む気力がありませんでした。ジジの説明も回りくどい。きっとこれではおママには理解でできないでしょう。

「ふーん。なんだか、わからないわ。」

「あの…、娘なんだけど。」

ジジはショックと私への申し訳なさからか、かなり情けない顔で肩を落としました。

「お母さん…、娘のこともわからないなんてね…。」

そうね。それはそうだよね。

とうの昔から、おママは私を娘と思っていないよね。

でも、私がちょっと驚いたのは、

(ジジよ、今更そこか❗️)

ということです。

おママが娘二人を産んだ記憶もなくし、その娘達を「誰だかわからないけど、親切そうに手伝ってくれる人」としか思わなくなって、いったい何年が経っているというのですか。

私は何年経ったのか、しばらく思い出せないくらい時は過ぎているのです。

今では、母、父、子供、兄弟、というような家族の概念だってあやふやなのですよ。

現在のおママは、ジジだけはかろうじて「一番身近な人」という風に思っています。

しかし、ジジだって、おママにとって何なのでしょう。

夫なのか?兄なのか?父親なのか?

はっきりはしていません。

(いいですか、お父さん、おママが分からないのは娘達だけじゃないんですよ。

お父さんの事だって、夫だと認識してはいないと思いますよ。何年も前からそうでしょう。)

私はジジに言いたかったけど、止めました。

だって、言っても詮無いことですから。94歳の老骨に鞭打つようなことを言ったら気の毒ですから。(^◇^;)

 

記憶より記録

待合室での会話から、私は記憶を辿ろうとしました。しかし、どうもよく思い出せません。おママにとって家族関係があやふやになったのは、いつだったのか?

あれは3年前?

いえいえ、もっと前でしょうか?

やはり、書いておかないとダメですね。日々の繰り返しと、次々起こる新しい問題が記憶を薄れさせるのです。

私は5年近く前にこの件を12回にも亘ってしつこく書いておりました。

5年前の私、ありがとう。

 

私達が「もしかして?おママは娘がわからなくなっている?」と疑い出したのは、

2014年のことでした。

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2015年、確証が持てない中で疑惑が深まり、

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私はついに直におママに聞いてみました。

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「ねぇ、お母さん。私の事、誰だかわかる?」

おママが面目を保ちたいと思えば、なんとか出来る最大のヒントを上げたのです。
ところが、おママは私を静かに見つめました。

「う〜ん。実はよく分からないの。でも、お母さんと呼ぶから…。娘かな…?」
「娘なのよ…。」

 

この時、私は覚悟していたけど、かなりボロボロになりました。

悲しいというよりも、「親に捨てられてしまった」という喪失感の方が大きかったです。

親は子を忘れない。

これは嘘だと思いました。

親は認知症になれば、いつか子の存在なんて忘れてしまうのです。

配偶者と兄弟の方がまだ残存率が高いのが不思議でした。これは本人にとって、子供との関係より記憶が古いからだと思います。

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そして、おママは「お母さん」と呼んでくれる人を「娘かな?」と認識するなら、赤の他人が娘に成り代わることも可能だと思いました。

もし、おママが徘徊して行方不明になったと仮定しましょう。誰か親切な人に「お母さん」と呼ばれたら、おママはその人の「お母さん」になるのか。これは家族にとっては恐ろしいことです。

 

受容には時間がかかる

実の親に忘れられてしまった。

名前だけでなく、娘としての存在すら忘れられてしまった。

 

この現実を平然と受け入れられる人はおそらくいないと思います。ショックがあって当然です。

私は1年以上をかけて、このことを少しづつ噛み砕きました。そして飲み込みました。

その後の長い時間の経過と事実の積み重ねによって、今は笑い話に転化できるようになりました。

その間に、私は開き直りました。

 

「おママが私を他人だと思っているなら、私もヘルパーに徹して、あまり親子と思わないようにしよう。その方が気が楽だわ。」

 

もちろん、遺伝上も戸籍上も親子である事実は変わりません。

心の半分は他人と割り切っています。そして、残りの半分で懐かしい昔のおママとの思い出を保っているという感じです。

本当は、

「お母さん、私よ、私は娘のチャーコなのよ❗️」

と縋りついて、おママに訴えてもよかったと思います。

しかし、おママは認知症ですから、それをしても失われつつある親子の記憶を繋ぎ止めるのは難しいでしょう。嘆けば嘆くだけ、悲しみは深まってしまいそうです。私の心身へのダメージは計り知れない。開き直りは自分を守る術でもありました。

 

しかし、ジジのように長い時間をかけても完全に受容できない人もいるでしょう。それは人の心情に照らしてみれば、これまた当然だと思います。

ジジは頭では理解しているとは思います。しかし、心の底では受け入れがたかったのかもしれません。ジジの脳裏には、長年連れ添ったしっかり者のおママ姿が生きていて、そこに戻ってほしい。その思いがとても強かったと思います。

 

それが、今回のジジと私の反応の差として表れたのでしょう。

 

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おママに忘れられて7年。

あれこれ落ち込んだり悩んだりもしましたが、今となってはそれも大きな問題ではなくなりました。

私がこれに慣れてしまったのでしょう。

そして、認知症の症状は更に進み、「お父さん」「お母さん」や「夫」「子供」すらあまり理解できていません。

仕方ないですよね。認知症で失われる記憶を止める術を私は知りません。

諦める、そして受け入れる。これは決してマイナスのこととは思いません。

時間をかけて培ったプラスの諦観が、前に進む力になってくれると信じたいです。

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                  家族迷路

本日アップの貼り絵

「お題方式の貼り絵」です。

*「お題方式の貼り絵」と「お題パック 」について

一昨年の夏ぐらいから、おママは貼り絵に使う紙を自分で1から探して選ぶ事が難しくなってきました。それで、あらかじめ私が「お題」と称して何種類かの紙を用意することが多くなりました。その他に組み合わせする紙片をおママに選んでもらってから、切り貼りを楽しんでもらうようになりました。私はこれを「お題方式の貼り絵」と呼んでいます。

 私が実家に行かない時でもおママが貼り絵に取り組みやすいように、「お題」と台紙にするハガキをチャック付きのビニール袋に入れておく。これが「お題パック」です。

 

(↓)元々はこのチラシでした。

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enoshima-seacandle.com

 

そして、これらの(↓)貼り絵に使った残りを「お題」にしました。

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(↓)こちらが2022年1月31日の「お題」はこちらでした。

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(↓)さて、切り始めました。

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youtu.be

おママの貼り絵制作動画①>

2022年1月31日 15:31〜(5分50秒)

薄紫の一番大きなピースをカットしている動画です。

私からすると、大雑把に切ってしまったら良いのにと思いますが、おママはそうはいきません。この日も渾身の超絶固執カットを繰り広げておりました。この粘り強さと根気はせいらいのものでしょう。認知症の症状によって更に拘りは強くなったように思います。

拘る事ができるうちは、気の済むまで拘って切り抜いて下さい。(^O^)

 

(↓)この写真の中で、おママの左手の中にある部分から他のピースが生まれました。

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(↓)おママはそしてこんな風にに構成を決めました。

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でも、糊付け段階で微妙に変わってしまいます。(^◇^;)

 

youtu.be

<おママの貼り絵制作動画②>

2022年1月31日 15:57〜(4分43秒)

ピース同士が重なっていますと、糊付けのためにせっかくの構成を崩す事になります。

そうすると、大抵おママは自分の考えた配置を忘れてしまいます。

赤い矢印のピースがどうなっていたか、動画の中では私も忘れてしまい、2人で考えてしまう場面があります。私の記憶もかなり良い加減ですね。結局おママは再構成をしました。

動画開始から3分28秒頃、おママは画面の中央付近を指差しながら

「ここにアレする」

と言っていました。つまり「ここに何かを貼る」という事だと思います。

 

(↓)おママは先程動画中に言っていた「ここにアレする」ピースを切ろうとしています。

寄木細工模様に千代紙ですね。(^。^)

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(↓)おママは貼り始めると、ついついたくさん貼りたくなってしまいました。

完成間近です。

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他に使った千代紙です。小津和紙で購入した(2017年)寄木細工模様。

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おママの貼り絵を見て下さり、ありがとうございます。